ヒグラシに寄生
8月の東京地方では、朝夕にはヒグラシの鳴き声をよく聞く。セミヤドリガの幼虫はヒグラシの生体の外部に寄生して育つ。
日中のヒグラシは木立の中の薄暗い場所でじっとしていることが多い。そういった個体をいくつか見ると、腹の付け根あたりにセミヤドリガの幼虫が付着していものが見つかる。セミヤドリガの99%はヒグラシに寄生すると言われているが、夕方までじっとしているゆえなのかも。
こちらのヒグラシには、白い繭のような綿毛におおわれた終齢と思われるものから若齢のものまで、数世代のセミヤドリガの幼虫が付着していた。ヒグラシの成虫のもともとの寿命もさほど長くない(2週間程度?)だろうから、セミヤドリガの成長は早そうである。
これだけ付着していても飛べないわけではないようで、もっと近くに寄ったら飛び去っていった。
幼虫の浮遊と蛹化
午前中の森を歩いていると、10~20mmほどの白い塊がゆったりフワフワと空中を漂っている光景を目にすることがある。
これは、ヒグラシから離脱したセミヤドリガの終齢幼虫が、蛹化するために下りてきたところ。綿毛に覆われた中にピンク色の幼虫の姿が見える。まず地上方向にちょっと太めの糸を下ろし、それを伝いながら風に揺れてゆったりゆったり落下したり上ったりしているようだった。
地面にベタッと落ちてしまうと、蜘蛛だのアリだのといった捕食者の餌食になってしまうから、都合のいい木の幹に触ることを期待してフワフワしているように感じた。
イヌシデか何かの幹に付着していた繭。
近くから見ると、まだ綿毛のようなもので新しいものだろう。
動画にしたときは、糸をつかんで木柵の上に下ろしたのだけど、数日後に訪れたら木柵の脇に繭ができていた。
こちらは雨にあたったせいか、ちょっと綿毛が溶けたような感じになっていた。
羽化した成虫
セミヤドリガの繭はすぐに見つかるものの、成虫になってから見つけるのは容易じゃないなぁと思っていたら、ちょうど羽化したての成虫に遭遇した。
前翅長が10mm弱で、触覚は粗い櫛状。繭の上部の茶色 の部分は蛹の抜け殻と思われる。これら3枚はフラッシュを使って撮影したので翅が黒くなってしまったが、自然光では前翅の前縁部は青地に黒い斑点といった具合だった。
参考用に自然光で撮影したもの。ブレてますが。
みんなで作る日本産蛾類図鑑V2のセミヤドリガのページによれば、単為生殖ということなのでオス無しで繁殖できるのだろう。果たしてこの個体はオスかメスかどちらなのかな。
卵は来夏まで静かに越冬するの? とか、孵化するきっかけはヒグラシの鳴き声なの? なんていう素朴な疑問がいろいろ湧いてくる不思議な生態の蛾である。